東京高等裁判所 平成2年(ネ)4556号 判決 1991年8月28日
亡宮野乕一訴訟承継人
控訴人
宮野忠平
右訴訟代理人弁護士
今成一郎
亡宮野政一訴訟承継人
被控訴人
宮野壽幸
右訴訟代理人弁護士
今井敬彌
主文
一 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
二 被控訴人の原判決別紙物件目録記載1ないし8及び13ないし16の土地についての主位的請求に係る訴えを却下する。
三 被控訴人の原判決別紙物件目録記載1ないし8及び13ないし16の土地についての予備的請求を棄却する。
四 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者が求めた裁判
一 控訴人
1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
本件控訴を棄却する。
第二 当事者の主張
当事者の主張は、控訴人において、「被控訴人が原判決別紙物件目録記載1ないし8及び13ないし16の土地を占有していることは認める。」と述べたほかは、原判決事実摘示のとおり(ただし、原判決三枚目表七行目の「受贈者」を「受遺者」に訂正する。)であるから、これを引用する。
第三 証拠関係<省略>
理由
第一主位的請求について
被控訴人は、主位的請求として、原判決別紙物件目録記載1ないし8及び13ないし16の土地についての占有権の確認を求めるが、控訴人は、被控訴人が右土地を占有していることを認めているから、被控訴人に右土地の占有権(占有という事実のみを法律要件として成立する。)があることを争っていないものといって妨げない。
占有権は、占有すべき権利(耕作することのできる権利・本権)とは異なる。占有者は、その占有が現に妨害され、又は妨害されるおそれがあるときは、占有訴権を行使することができるが、単なる占有権の確認を求めても、現在の権利又は法律的地位の不安定の除去に何ら寄与しない。
そうすると、被控訴人が右土地の占有権を有することの確認を求める訴えは、確認の利益がないことが明らかであるから、右訴えは不適法であり、却下すべきである。
第二予備的請求について
一そこで、原判決別紙物件目録記載1ないし8及び13ないし16の土地に係る予備的請求について検討するに、請求の原因1及び5の事実は、当事者間に争いがなく、<書証番号略>、原審における証人宮野昌一(第一、二回)、同宮野忠平、同山田久作、同星野義泰、同鶴巻辰次郎、同小田章吾の各証言及び亡宮野政一、控訴人及び被控訴人(第一、二回)各本人尋問の結果(ただし、いずれも後記認定に反する部分を除く。)並びに弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
1 亡庄七(明治一七年二月一四日生、昭和三七年四月一〇日死亡)及び妻ワイは、本件土地を含む約二町六反の自作地、小作地を耕作して農業に従事する傍ら桶屋を営んでいたが、子供がいなかったので、亡庄七の弟の乕一(明治二七年八月五日生、昭和五三年一月七日死亡)と大正六年一二月二九日、養子縁組をした。それ以来、乕一は、亡庄七夫婦と同居して家業を手伝い、大正七年三月一日にはツギと婚姻して、その間に長男亡政一(大正七年九月一三日生、昭和六三年一二月二九日死亡)、次男控訴人(大正九年九月一六日生)らが生れた。
2 亡政一は、昭和八年に高等小学校を卒業すると同時に、亡庄七夫婦を助けて農業に従事し、昭和一七年七月二三日、ツナと婚姻し、その間に長男の被控訴人(昭和一九年七月二六日生)が生まれた。亡政一は、そのころ出征したので、残された亡庄七夫婦、亡乕一夫婦、亡政一の妻らが田畑を耕作した。
3 亡政一は、終戦とともに復員して再び亡庄七家族の一員となり、昭和二一年春ころからは、亡庄七らに代わって事実上一家の中心となって田畑を耕作するようになった。一方、亡乕一は、もともと亡庄七の後継者として農業を続ける意欲が乏しかったことに加えて、亡政一の働き振りに一層意欲を失い、昭和二三年春ころ、妻とともに亡庄七の家を出、自ら山林を保有して製材業を営む傍ら、大工職人として稼働するようになった。
4 このような状況から、亡庄七も、次第に亡乕一に代わって亡政一に農業を受け継いでもらいたいと思うようになり、亡政一もその積もりでいたし、亡乕一もいずれは亡政一が亡庄七の後継ぎになると考えていた。
亡政一は、こうして引き続き田畑を耕作するとともに、自分の名前で農区費、農業共済掛金、土地改良区賦課金、固定資産税等の支払いをしたり、自分宛てに産米供出の割当てを受けたりした。昭和三七年四月一〇日に亡庄七が死亡し、それに伴って相続財産である耕作中の農地等は亡乕一が相続したが、それ以後も引き続き亡政一が耕作していた。
5 亡乕一は、昭和四四年初めころ、亡政一に対し、「自分達夫婦も年をとって働けなくなったので、今後の面倒をみて欲しい、その代わりに田畑も家も全部やる。」と申し入れ、親族もこぞって亡政一を説得したが、結局亡政一はこれを拒否した。このため、亡乕一は、生活費を捻出するため、田畑の一部を埋め立てて第三者に売却した。
本件土地についても、亡乕一によって亡政一の耕作が妨害される等のおそれがあったので、亡政一は、新潟地方裁判所三条支部に、亡乕一を相手方として、立入禁止等の仮処分を申請し、昭和四五年九月三日、その旨の仮処分決定を得た。
6 原判決別紙物件目録記載9ないし12の土地は、昭和四五年九月ころには、既に亡乕一によって埋め立てられ第三者に売却されていたが、同目録記載1ないし8及び13ないし16の土地は、それ以後も亡政一が耕作していた。しかし、昭和六三年以降は、米穀の事前売渡し申込限度数量の割当てが減少したこともあって、被控訴人は、右土地の耕作を取り止めている。
二被控訴人は、亡庄七と亡政一は、本件土地を含む農地について賃貸借契約を締結した旨主張する。
しかしながら、右亡宮野政一本人尋問の結果中には、被控訴人が主張するような賃貸借契約が締結されたことを窺わせる供述は全くなく、その他右主張を認めるに足りる証拠はない。かえって、前記のとおり、亡政一は、昭和二一年春以来、亡庄七夫婦と同居して農業経営を助け、やがて一家の中心となって田畑を耕作し、農区費、税金等の諸費用を負担し、自分と亡庄七夫婦らの家族の生計を支え、引き続き農業に従事してきたものであって、亡政一には、亡庄七と賃貸借契約を結んでおく必要があることは全く念頭になかったものといわざるを得ない。
したがって、被控訴人の右主張は、採用することができない。
三そうすると、原判決別紙物件目録記載1ないし8及び13ないし16の土地についての予備的請求は理由がないから、これを棄却すべきである。
第三よって、原判決別紙物件目録記載1ないし8及び13ないし16の土地についての主位的請求を認容した原判決は失当であるから、原判決中、控訴人敗訴部分を取り消して、右請求に係る訴えを却下し、右土地についての予備的請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官藤井正雄 裁判官大藤敏 裁判官水谷正俊)